「サザエさん」が年をとらないわけ

毎週日曜18時半。国民的人気テレビアニメ「サザエさん」を楽しみにしている人は多いでしょう。1969年の放送開始以来53年。放映は8000話を超えました。世界で最も長く放送されているテレビアニメ番組としてギネス世界記録に認定されています。興味深いのはアニメの登場人物が、放送開始からずっと同じ年齢で一切年を重ねていないことです。ちなみにサザエさんは半世紀以上に渡って24歳のまま。ただ、ほのぼのとした日本の家族の世界観を描き続けるなかで、長寿番組ならではの時間軸の齟齬やちょっとした矛盾も見えてきました。時代の変化やニーズに私たち同様「サザエさん」も、もがいているようです。 

長寿アニメならではの矛盾も

過去の番組でファンがSNSでざわついたこんな場面がありました。サザエさんの弟、カツオが同級生たちと楽しそうに談笑しているシーンです。ある同級生が持っていた万国博覧会の記念硬貨が話題に上がりました。別の同級生がいいました。「私たちが生まれるずっと前の万博ね」。ところが、カツオは無表情。実は1970年に放映された回「サザエ、万博にいく」でカツオは家族でその万博に出かけていたのです。 

完全デジタル化も海外展開なし

日本のテレビアニメでは長らく、登場人物を描いたセル画を背景画に重ねて1コマずつ撮影する手法が用いられてきました。しかし、1990年代後半からコンピューターによるデジタル制作が中心になりました。「サザエさん」も2013年10月放送分からデジタルに完全に移行しました。アニメ製作の省力化のためと、視聴者に高画質で楽しんでもらうためでした。残念ながら、サザエさんは作者の希望もあって海外での放映はされていませんが、「NARUTO」や「ドラゴンボール」「ガンダム」などの日本アニメは海外でも人気があるようです。しかも、現在はデジタル化によって、アニメを携帯電話やタブレットなどで視聴しながら同時に字幕を読むことができる時代。これまで、翻訳には長い時間がかかり、海外への「輸出」にも長い時間がかかりました。 だからこそ、日本と同時に海外でもアニメを楽しむことができるようになり、人のデジタル時代が非常に重要になっています。

「サザエさん方式」他作品の手本

「時間軸の経過の概念はあるけれど、登場人物が年をとらない」という設定はアニメや漫画、そして映画やゲーム業界などでも「サザエさん方式」「サザエさん時空」などと言われ、多くの作品が参考にしています。しかし、半世紀以上も一定の世界観で描かれるアニメ番組の場合、そう簡単な話ではありません。愛着のあるキャラクターがみるみる年をとり、人格や行動が変化するとしたら、視聴者がついていけない可能性があります。すぐに終わらせるわけにはいかない長寿番組だけに、登場人物が年を重ねるわけにはいかない事情があります。

背景描写 マイナーチェンジ

そのため、時代設定の背景描写やピンポイントの登場人物だけを最近のものにするなどして、サザエさんは「マイナーチェンジ」を繰り返しながら、回を重ねています。 

例えば、サザエの父、波平や夫のマスオが家のなかでたばこを吸うシーンが以前は普通でしたが、最近はなくなりました。ドライブのシーンで言えば、カツオや妹のワカメが以前はしていなかった後部座席のシートベルトを今では必ず締めるようになりました。最近では東京の新名所、東京スカイツリーが背景に映り込んだり、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手が登場したり。2021年の東京オリンピック・パラリンピックを家族で話題にするシーンもありました。 

登場しないスマホ、パソコン

一方で、「サザエさん」には世界観を優先し、デジタル化に抗う姿勢も垣間見えます。作品にはパソコンやスマートフォンがほとんど登場しないのです。

雨の日、仕事帰りの父、波平をカツオやワカメが傘を持って最寄り駅まで迎えに行く場面ではよく「すれ違い」があります。そこから思わぬ方向へストーリーが展開していくのが魅力の一つです。現代のようにスマートフォンがあれば、そんな「行き違い」はほぼなくなるのですが。「サザエさん」にスマートフォンやパソコンがほとんど登場しないのは、そんな理由なのかもしれません。 

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